意外かもしれないが
コール・ポーターは35歳ころまで
ヒット曲に恵まれなかった。
彼は当時売れっ子作曲者だった
リチャード・ロジャースや
アーヴィング・バーリンや
ジョージ・ガーシュインの
楽曲を研究しヒット曲の条件は
3人の共通ルーツである
「ユダヤ的メロディー」を
曲にそっと忍ばせることだと気づく。
時は移り次世代ユダヤ人作曲家たち
リーバー&ストラーや
フィル・スペクター等が
活躍する時代になっても
そのユダヤ的作曲手法は継承された。
キャロル・キングも
そんなユダヤ人作曲者達の伝統に
のっとりヒット曲を量産する
1960年代を代表する
「プロの作曲家」だった。
しかし1970年前後
ジェイムス・テイラーなど
作為を感じさせない
「自然派」とでも呼べそうな
シンガーソングライター達の
台頭によりプロのプロたる仕事が
通用しなくなったと見るや
彼女は「自然派」へシフト。
そして
自ら歌い発表したアルバムが
あの歴史的な大ヒット
「つづれ織り1971年」だった。
(現在まで売上2500万枚)
「自然派」転向とはいっても
長年つちかったプロの作曲家魂は
「つづれ織り」でも
決して捨てなかった
キャロル・キング。
「つづれ織り」の後のアルバム
「ミュージック」は気合が入りすぎ
プロ魂が目に付くアルバムだった。
しかしそこは真のプロフェッショナル
次のアルバム
「ライムズ&リーズンズ」は
プロ魂と自然派のバランスが絶妙。
特にLP盤でいうとB面の
のびやかな流れは感動もの。
長い前置きになってしまったが
ロン・セックススミスの新作
「エルミタージュ」は
彼にとっての
「ライムズ&リーズンズ」なのだと思う。
ポール・マッカートニーやニルソンを
アイドルと呼ぶロンは
長年「創意工夫を凝らした
良質のポップチューン」を書くことを
目指してきた。
しかし新作はそこから解放され
いい意味で自然な心の流れに
身を任せたような作風なのだ。
それはたぶん
「ライムズ&リーズンズ」を
録音した時のキャロル・キングの
気持ちにとても近い気がする。
RON SEXSMITH/HERMITAGE (LP)
COOKING VINYL: COOKLP 759 (EU 2020)